寒い日曜日

和香さん、あなたが天国に旅立ってからもう10年の月日が経ちました。そちらの住み心地はいかがでしょうか。

あなたとの初めての出会いは、港町に近い特別養護老人ホームでしたね。私が毎日曜日にボランティアで行くと、会社実印93歳のあなたはいつも儀式のように薄化粧し、淡い口紅、黒い髪は櫛で整えられ、首には、ピンクのバラの花模様のネッカチーフをきちんと結んでいる姿は生き生きと輝いていました。

あなたは物静かにおっしゃった。

「老人ホームの職員の皆さんが、いつも笑顔で優しくお世話してくださるので私の心も明るくなります。はんこ笑顔は心に良く効く薬です。私は一人一人の笑顔によって、生かされて生きていることに気がつきました」と。

和香さん、覚えていますか。

あの12月、木枯らし吹く肌寒い日曜日に私があなたの部屋に行ったら、はんこ作成すかさず小走りで両手を広げ泣きつき、

「夜中のトイレに行ったら使用中で、こらえきれず、オシッコを漏らして下着と衣服を濡らしたの、寒かった」と、涙ぐんでわたしにそっと囁いたあなたは、少女のように可愛い女でした。私は思わずあなたを強く抱きしめてしまいました。

今も、あなたの柔らかく優しい両手の温もりの感触と情景が私の心の奥深くに生きています。

和香さん、私もそのうちに天国に旅立ちます。その節は天国に良い席を取っておいてください。

あなたと美しい天の川の岸辺でキラキラ光り輝くお星様に包まれながら、心行くまでお話できれば、と天を仰ぎ祈り続けています。

印鑑の書体は印鑑の使う道によって、選ぶ書体は違います。現在、印鑑に使う書体は大体六つがあり、古印体、篆書体、行書体、隷書体、楷書体と印相体です。